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「ラン」
 先日、コスタリカの民放テレビで黒澤明監督の映画を放映していた。同監督の追悼の意味だったのでしょう。仲代達矢主演の「乱」であった。西洋の物語を無理やり日本の時代劇に仕立てたと思わせた。原典でも読んでいれば成る程なるほどとなることだろう。それはそれとして、色彩が実にキレイであった。大地のくすんだ色に着飾った馬、鎧兜に身を固めた武者、色とりどりの物差し、あれをカラフルと言わないで何をカラフルとの感があった。色の使い方一つで見た目がかなり違ってくるのが分かる気がした。人間以外の動物はもっと勘違いをするに違いない。
 何年か前、銀座千疋屋へとある方のお供で行ったことがある。その方は上得意さんであったのだろう、入るなり「コチョウラン」と何回か連呼された。店員はすっとんで準備し這いつくばらんばかりのお辞儀の仕方であった。
 「コチョウラン」と聞いたのは恥ずかしながらこのときが初めてであった。その方のお求めになった「コチョウラン」をジロジロ見るのも田舎者まるだしの様に思えたので出来るだけ何気なく見て驚いた。花と言うのか花弁と言うのか知らないが実に可憐な白い花がカマキリの足みたいな細い茎に3ツ咲いていた。
 銀座千疋屋は上等の果物を売っているとばかり思っていたら花屋さんも兼ねていたのにいささか驚いた。表の看板は「Fruit Shop」だろうか「Florist」だろうか。それとも「銀座千疋屋」だけだろうか。最近倒産したと聞いた。表札を確認しておけば良かった。

 今お世話になっているホテルには日本では到底見られない花を含め多種の観葉植物を育てている。その中にラン科植物の蘭もある。蘭は熱帯雨林が原産地だとか。となると、コスタリカも原産地の一ヶ所と言うことになる。
 あの見事な色彩、優雅な形は見る人様を圧倒する。白い花びらの中に紫色の筋がスウーと引いてあったりする。鉢植えの蘭をホテルの玄関先に飾ってあり、好きな方は上から下から飽きずに見とれている。ちょっと離れてみると蝶々とか虫に見える。先日も虫が止まっているとジーと見ていたがあまり動かないのでフーと息を掛けたら虫の足がポロリと落ちた。一瞬ギクリとした。枯れた花くずかオシベが一段低い花に引っかかっていたのです。
 私の「ラン」はこのようなものでいささかも風流・優雅を解していないし、人間以外の動物並なのです。ハイ。

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