皆さんも近頃、自然を題材にしたTV番組でコスタリカの葉切り蟻(スペイン語ではhormiga zompopa)をご覧になったことがおありかと思いますが、この蟻はジャングルだけに住んでいるのではなく、なんと家の周りの普通の道でも、エッサホイサと行列をなして歩いているのです。緑の葉や赤い花びらの切れ端がゆらゆらと動いているのは、なかなか可愛い光景です。葉切り蟻は、決して家の中には入ってくることはないので、「頑張って運びなさい」と、思わず応援したくなって、また、踏まないように気をつけたりもしてしまいます。
一方、他の種類の蟻と言えば、甘いものが無くても油断したが最後、雨季ともなれば、大、中、小、様々な大きさの、黒色、茶色、たくさんの蟻が家に入ってきます。台所ならともかく、洗面所、勉強机、戸の鍵穴、コンセントの穴にまで! いったいどこから入ってくるの?コスタリカに来たばかりの時は、雨季の真っ只中で、毎日雨がたくさん降っていました。ある夜、机の上に蟻が何匹も歩いているので、ワープロをそっと持ち上げてみたら、その下には何と蟻の黒い塊が!しかも、白い小さな米粒のようなものまで混じっているではありませんか。よくよく見ると、それは蟻の卵でした。恐る恐るワープロを開けてみると、中にもたくさんの蟻がいて、まさかと思いながら、電話、卓上ライトの下を見れば、既に同じく蟻の溜まり場と化していたのでした。肝心の主人はその夜いなくて、悲鳴を上げたい気持ちを必死に抑え、子供達(当時8歳、10歳)が「こんな所嫌だ」と逃げ出したくならないよう、努めて明るく作り笑顔で振る舞い、用心深く殺虫剤をワープロの隙間部分に吹きかけたのでした。すると、出るは出るは、泉から涌き水がモワーッと溢れてくるように、卵を持った蟻がゾロゾロと出てくるさまを皆さん想像できるかしら? 蟻にとってワープロは、雨の多い屋外に代わって子供を育てるのにちょうど良い住宅環境だったようです。その後、パソコンを購入するまでの1年あまり、そのワープロはスクリーンに蟻の死骸を残したまま活躍してくれました。
その後の残り2ヶ月余りの雨季の間、私は「蟻ノイローゼ」に悩まされ続けました。毎朝、台所の壁から天井にかけて蟻が歩いているので、蟻の行列に朝の挨拶をしに台所へ行くようなものでした。最初は大きな蟻、それを殺し終わると中ぐらいのが現われ、最後には小ぶりの蟻が大量に現われました。ついに堪忍袋の緒が切れた私は、最後の蟻軍団に対して、左右の壁から攻めていきました。そうしたら、何と上の真中に丸く固まり、何ごとかひそひそと戦闘会議をしているように見えるではありませんか。
以下、蟻語会話の超和訳、
「オイ、右から攻めてきたよ」
「左もだめだ」
「どうする?逃げ道は無いぞ」
「下にジャンプするか?でも、おっかなそうな化け物がいるしなー」 と、まぁ〜こんな感じでしょうか。その一瞬、私は楽しい想像をして「問答無用」とばかり、その黒い固まりを思い切りバーンとつぶしました。これは背中から抜けるような、なかなかの快感でした。この一件以来、その年は台所からすっかり蟻が姿を消したのです。
「蟻さん、我が家に入ってきたら、この私がただではおかないわよ。」 |