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第5話 Ahorita(アオリタ)−今
 アスタ マニャーナ(直訳 明日まで)は、日本にいる頃から知っていた数少ないスペイン語の一つです。別れる時の挨拶でも使うし、「まー、明日ならなんとかなるかな。」のような時にも使います。日本にいた時から、スペイン語の世界でよく使われる言葉で、時間の捉え方が幅広いラテン社会を象徴した言葉として知っていたので、実際、耳にした時は、むしろうれしくもありました。ところが、初めて耳にする“Ahorita”と言う単語には、当初、よく振り回されました。
 例えば、こちらで暮らし始めたばかりの頃、入居した家にはいくつかの問題があり、大家さんに言って修理してもらうことにしました。ある日、修理する人が来て直してくれたのですが、一ヶ所、その人ではどうしても直せないところがあり、仕事を終えて帰る前に、別 の業者に電話をしてくれました。
“Ahorita viene.(今、来るよ)”
その言葉を初めて聞く私は、“Ahorita?”と、鸚鵡返しに聞いてみました。
“Ahorita, ahorita!(今だよ、今)”と、言うので“Gracias”と言うしかなく、その“Ahorita(今)”と言うのを信じて、今か今かと待ったのです。 5分、10分、20分・・・、待てども待てども、いっこうに来ない。たしか、「今」 と言ったはず。1時間経っても来ない。そろそろ、買い物に行きたいのになー。 そして、結局、とうとうその日は、だれも来ませんでした。次の日、こちらの習慣に慣れていない私は、もしかしたら「すみません、昨日来られなくて」と言いながら来てくれるのでは・・・と、お人好しにも期待して待ったのですが、やはり来なかった。同じ事を何度も言うのは失礼なのでは、と思っていたのですが、こちらではその逆で、大家さんに何度も何度も催促してかなり経ってから、やっと修理の人が来たのでした。

 その後“Ahorita”を聞くたびに、人によって「今」という言葉の時間的認識が違うことがわかったのです。また,そのことを確かめたくて、コスタリカ大学の文学部にある、外国人向けスペイン語コースに参加していた時、先生に聞いてみました。
「今というのは、私たちにとってまさしく今の時点を言うのですが、コスタリカ人にとっては、ahoritaとはどのくらいの時間なのですか?」
「人によって違います。例えば私の主人の場合、15分から30分ぐらい。父では、1時間ぐらいかな。」
これはあくまでも例えなのでしょうが、その答えをもらった時は、思わず、やはりそうか、と納得してしまいました。決してコスタリカ人(ラテン人)の時間的観念の悪さを言っているのではありません。時間というのは、1分は60秒、1時間は60分という、学校で習った数学的物理的概念だけではなく、住む環境、人の価値観によって、そう、ちょうどパンツのゴムひも(失礼、でも私のボキャブラリーの箱ではこれが一番適切な表現)のように、縮むだけでなく、いくらでも伸ばし得るものなのだと発見したのです!これに気付いて慣れるまで、イライラしながら、1年近くかかりましたが、意外や、慣れるとこのラテン的ゴムひも時間の間隔(感覚)も悪くないもの。むしろ、これを楽しめるようになって、まだ脳細胞も老化していないからか、1分60秒の間隔が必要な時はその時間でと、臨機応変に対応しています。時間は、考えようによっては、いくらでも作れるもの。

ラテンの世界では、短気は禁物なのです。

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