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第4話 Besito-ベシート
 慣れるとこれがまた、たまらなく癖になってしまう、ラテンの世界でのオバサンを、一瞬、乙女に変えてくれるもの、それがベシート。

 挨拶を交わす時、こちらの人たちは男性同士以外は、右と右の頬を合わせて一度「チュッ」と軽く音を口で出して挨拶します。しかし、私たちアジア人にはこの頬を相手に向けるタイミング、これが実に難しい のです。

 初めの頃は、腕の動きはどうしたらいいの? 両手を相手のどの部分に持っていくの? などと考えてしまい、相手が顔を突き出してきたのに、思わず無意識にのけぞってしまい、結局、避けてしまった感じになったこともありました。 そうすると、相手は次からベシートを求めてくれなくなって、それなら「よし!」とばかりに、こちらがしっかり心の準備をして顔を突き出したのに、「Hola! Como esta?」(やあ、元気?)と、前回避けられたと思っている相手は、この一言であっけなく挨拶が終わってしまいました。

 このように数々の失敗もありましたが、回数をこなすうちに、いつのまにか自然と右の頬が相手の頬めがけて、スーと近づいてゆく快感。私は今ではこのベシートが大好きになって、相手が男性であろうとなかろうと、自然体でできるようになりました。ところが、こんなことが最近ありました。こちらには、スーパーで買った品物を袋に入れて、車まで運んでくれるムチャチョ(青年)がいます。だいたい12歳から17,8歳ぐらいの男の子たちです。そこで働く子供たちを見るたびに懐かしく思い出す青年がいます。 私の名前まで覚えて、いつも荷物運びを手伝ってくれたルイス君、いつのまにかレストランで働くことになったみたいで、私とスーパーで会うこともなくなっていました。

 ところがある日、いつものスーパーのレジで見覚えのある青年が近づいて来るではありませんか。

 2年ぶりに会うルイス君は、私より小さかった背も高くなり、昔のかわいい、一生懸命荷物を運んでいた男の子というより、成人した立派な青年になっていました。「こんにちは」と、以前とは違うとても落着いた声で近づいてきて、ベシ−トをするためにぐっと迫ってきた彼を思わず避ける形で、「まー、ずいぶん大きくなったわね。」と、不覚にも私は思わず一歩下がってしまったのです。

 こちらでは普通の挨拶でも、日本ではオバサンと10代の青年とが頬と頬を合わせて挨拶なんてしないので、自分はコスタリカにいるとわかっていても、なぜかその時、自分が日本人のオバサンという気持ちが邪魔して、ルイス君とサラッとベシートができなかったのです。ちょっと奇妙な顔をしながら、「家族の皆さんはお元気ですか?」とルイス君。「ええ、ありがとう」と、何となくバツの悪い気持ちで別れました。今度会った時はちゃんとベシートしよう、と思っているのですが、そのチャンスはいつ来るのか・・・。

 オバサンの気持ちを一瞬、10歳、20歳も若くしてくれる魔法、それがベシート。

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