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第38話 信用 その1
 他人を信用するということは、とてもリスクを背負うことがある。ましてや、異国人だとなおさらだ。しかし、私はコスタリカ人同士というか、当地企業同士すら信用し合っていないケースをいくつか経験した。

 話は長くなるが、3年前、私は免許取り立てほやほや2週間後、友達と映画を見る子供を降ろした直後、対向車とすれ違う左側ばかりを気にして、車幅がまだつかめていなく、ハンドルの切り方も下手で、右側のドアを壁にこすってしまった。そのショッピングモールの駐車場は狭く、また、私がこすった場所は少し突き出ていて、何台もの車のこすった後があった。私のこすり方などかわいいもので、壁をえぐるように通っていったものもあった。

 車はコスタリカで独占の保険公社(INS)に加入しているのだが、保険で処理する場合は、車を現場に残した状態でINSを呼んで検証してもらわなければ保険が下りない、と聞いていたので、即電話をかけた。幸い、現場は誰もがわかるショッピングモールだったので、説明は楽だった。待つこと30分、INSのマークを付けたオートバイがやって来た。必要な個所をポラロイドで写真を撮り、この事故は貴方に責任があるのか、などの質問を受け、状況説明をスペイン語で書かされた。そして、そのINSの証明書を持って修理工場に行けばいいと言われ、翌日行った。

 その修理工場は、塗装技術ではコスタリカでも有名な大手だ。行ってみてビックリしたのだが、何台もの高級車が見るも無残な状態で修理の順番を待っていた。私のこすり傷など塗装が剥げた程度で大したことはない。事務所でいくつかの説明と質問があったが、何気なく私は「Si」を繰り返した。ただの塗装だと思っていたので安易に考えていた。

 待つこと3週間ほどして、我が愛車は痛々しい傷が直って元のピカピカになった。大したこと無くてよかった、と支払うためにまた事務所に行ったのだが、いざ払う段階になって予定していたより高い金額を提示された。保険の範囲内なので、私が支払う金額は7万コロンのはず。ところが、言われた額面は約19万コロンだった。どうしてだと説明を求めても説明がわかりにくく、私を理解させる前に「あなたはこれに同意してサインをした」と、まず自分達には落ち度が無いことを前面に出してきた。

 そうではなく、保険に入っているのに何故全額払わなければならないのか、それがわからないと質問し直した。が、同じ説明を相手の女性は繰り返すばかりで、全く埒が明かない。そこへ別の男性がサラっと言ったことはこういうことだった。ハッキリ言えば、この工場は、コスタリカで唯一の保険会社のINSがちゃんと工場に支払ってくれるかどうか信用していない、ということだった。だから、客にまず全額払わせた上でINSに請求し、INSが一ヶ月以内に払ってくれれば差額を客に戻す、というシステムをこの工場は取っているということだった。12万コロンも余分に持っていなかった私は、仕方が無いのでクレジットカードを提示したが、結局その金額は引き落とされなかったので、INSは問題なく工場に支払ってくれたようだ。コスタリカ唯一の保険会社を信用しないなんて、高額の保険料を払っている被保険者は、いざという時、本当に保険金を受けられるのか心配になってしまうではないか。

 ということは、あのグチャグチャ高級車は保険に入っているといっても、同じようにまず全額払わないと車を受け取れないので、車の持ち主は、当然高額の修理代を払う能力がある人なのだろう。もちろん、何人かの人に聞いたところ、そのような手続きをせずに修理してくれる工場も存在するようだが、私のように女一人で行くにはちょっと場所を選んでしまう。今後も何かあったらその工場に行くしかないのだろうが、今のところ、そこを利用することなく済んでいる。

つづく
 

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