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「無条件降伏」
  音楽の時間が来る。グルグルっと回して上へ伸び、グルグルの真中を通して下でもう一度小さくグルグルするのがト音記号。そのト音記号の右側に何にもないのがハ長調で、ハ長調のドレミファが何処から始まるのかを知ったのは何時頃だったか。カラオケは大の苦手であるし楽器はなにも弾けない。吹けるのはハモニカくらいである。村の青年団が行う秋祭りの獅子舞の舞い子はやったが笛はやらなかった。いや、やらせてもらえなかった。

 何か楽器が弾ける人とか、歌の上手な人をみるとつい惚れぼれしてしまう。左右の手を自在に操りながらピアノを弾く、しかも右と左で速度が異なるなど人技ではない。あれは誰かが手をあやつっているのである。私自身が出来ないことをいとも簡単にやってしまう人、そういう人を私は無条件で尊敬する。

 秋常先生は小学校二年ー四年生時の担任である。悪童たちは「あ・きつね先生」だと言って喜んでいた。ある日、寅ちゃんこと桜井寅雄君が先生から叱られたとき、「きつね、狐、山へゆけ」と泣きながら叫んだ。忘れられない。
 この先生に叱られたことがある。図画の時間に先生を描けと言われたのだろうと思う。描いたのは女のひとで三角形のスカートをはいていた。そのスカートから出ている足が相当はなれており、しかも絶対に交わらないような線であった。
 図画では構図は勿論だが色彩も教える。色彩については今でもトンチンカンである。買って帰ったズボンとシャツの色合わせがなっていないと家内に言われてから自分では買わなくなってしまった。こんなところでも「図画」の授業が生きているのである。

 父は字が上手かった。兄も上手だし器用でもある。多分に字の上手さと器用さは多くの面で一致するに違いない。器用な人と言うのはある意味ではジッと身体を動かさないでいられる性格の人のように思える。時計職人がそうである。縫い子さんがそうである。私は低学年のころ鉛筆も削れなかった。時々母が見かねて削ってくれた。走りっこが好き体操が好きな者には器用の才能の方で愛想を尽かしたのだろうか。走りっこも体操も好き、しかも器用で字が上手い人がいたら私は無条件降伏である。

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