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第3話 新聞配達を頼む
 何かが足りない。
ここに住んでいて、普通の住民がしていることで私がしていない何かがある、と思うようになったのです。何かしら?早朝どこにでも見られる光景が、私の家の台所から見える外にありました。そうです、新聞配達です。コスタリカに住むようになって5年にもなるのに、私はこちらの新聞を定期購読していませんでした。主人は会社で購読しているので、どうせスペイン語などそんなに読めない私、買っても積読になるのは指摘されないまでも、自らのウン10年にわたる語学学習の経験からわかっていたので、これまで配達は頼まなかったのです。どうしても必要な時は、これまで、近所の雑貨屋に行って買っていました。しかし、こちらに来て5年も経ったので、毎朝起きたら玄関に新聞がある、という生活を急にしてみたくなったのです。これぞここで生活している証、みたいなものが、私にとって新聞定期購読という気がつのりました。

  「頼みたい、頼みたい・・・。」そう思ったら、とうとう頼まずにはいられなくなり、自分で頼むことを条件に、定期購読の承諾を主人から得ました。さて、まずどこに電話をするべきか?から始まったのですが、以前購入した新聞に電 話番号が載っているはず、と探してみたら、しめしめ2ページ目に電話番号表があります。代表番号は多分本社で、日本のように配達の番号は別のところだろうと目を動かしていくと、「支店」という欄があり、私が住んでいる地域名もあるので、まずそこに電話をしてみました。ダイヤルを押す指は緊張するし、「私のスペイン語通じるかしら?通じても相手の返答を理解できるかしら?」と、ドキドキ。「Buenos dias.La Nacion (注 新聞名) ・・・」と、とっても感じのいい女性の声。リラックスして、以下はもう勘で“Si”、“No”を言って、毎月支払う話まで無事終わりました。さて、この次が前回書いた「住所」はどこか、になったわけです。「xxxから北に300メートル、西に100メートル、・・・。」 伝えながら、わかってもらえただろうか半信半疑だったのですが、「今日は火曜日なので木曜日から配達します。」に続き、最後に「あなたにサービスできて大変うれしいです。」のようなことを言われて、電話は無事終わりました。通じた・・・、とホッとし、自分でできた喜びと、意外にも感じのいい女性の対応でしばらくホ〜としていました。

  木曜日の朝、ワクワクしながら待ったのですが、なぜか新聞は来ませんでした。「やっぱりな」という気持ちと、やはり住所がわかりにくかったのかしら、と思いながら、また、同じ所に電話をしました。別の男性が出たのですが、この人もとても感じが良く、また住所の話になったので、「自宅の地図(こんな時のため自分で作りました)をファックスで送りましょうか?」と尋ねると、「その方が確実だ」と言うことなので、ファックス番号を聞いて、また、前回同様、「あなたにサービス・・・」と言われて電話を切りました。決まり文句なのかもしれないけれど、スペイン語がわからなくて辛い思いを何度もした私には、とても心暖まる応対でした。ファックスを送ると、すぐにオートバイに乗った人が配達に来てくれました。「一軒家はわかにくくて。地図はパーフェクトにわかりました。」「あなたがいつも配達してくれるの?」「いえ、私の父です。」「いつも自転車で来ている人?」「そうです。」 そして、その男性が去ってしばらくすると、配達所から「届けに行きましたでしょうか?」と、確認の電話が。こんなに至れり尽せりサービスされることはこちらではめずらしく、とても気持ちが良かったのです。

  日曜日の朝、玄関の呼び鈴が鳴るので行ってみると、配達のおじいさんが、「日曜版は厚みがあるので、玄関の戸の下から入れられないけど、どうしたらよいか?」と、相談してきました。住所がないので、当然新聞受けもありません。それから、私とおじいさんは、あーでもない、こうでもないと、分厚い日曜版を片手に、いろいろやってみました。おじいさんは真剣に、最良の方法を必死に見つけ出そうと考えてくれました。何もそんなに真剣に悩んでくれなくてもいいのに、と思ったのですが、配達所の感じのいい応対といい、おじいさんの丁寧な配達の仕方にも感激して、しばらくおじいさんとのやり取りを楽しんでしまいました。こちらの人のプリミティブな良い面を発見した、心地良い日曜日の早朝でした。

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