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第18話 耳元への「ささやき」
 Uno、Dos、Tres・・・、A la delecha・・・。はつらつとしたインストラクターの掛け声と共に、老いも若きも、細い人も太い人も元気に体を動かすエアロビクス。我が家から500メートル程の所にジムがある。時間帯が決まっているエアロビクスより、もっと気楽なマシーンを私は専門に使用している。

 午前中は、男性2人女性1人、計3人のエアロビクス・インストラクターが来ているが、その一人の男性インストラクターの時間が、他の2人に比べていつも満員御礼。外見はどちらかというとパッとしない小柄、スマートでもないしラティーノ的ハンサムでもない。何が彼の時間帯のみ満員にさせているのかじっと観察してみた。それは、「耳元へのささやき」攻撃だった。

 始まる前に、来た奥様の耳元へ近づきささやく。それもかなり年配の奥様が、パッと顔を赤らめて喜んでいる。次にまた他の女性へささやく。とてもまめなインストラクター。その時だけではない。エクササイズが始まれば、中でも上手な女性に、しかもその時も耳元へささやき交代をお願いし、自分は汗を流しながら頑張っている奥様方の中に入り、これまた、耳元へささやく。ささやかれた彼女たちは、苦しい顔をしていたのに決まって皆、うれしそうな笑みを浮かべる。そして、ますます美しくなるために、彼女たちはエクササイズに励む。

 一体何をささやいているのか。「セニョーラ、今日も綺麗ですね。」とか、「細くなったね。」とか言っているのだろうか。気になった私はある日、彼の時間を2、3回受けてみた。エクササイズ中、何度か私のそばにも来たが、期待の「ささやき」は受けられなかった。残念ながら「ささやき」を与える対象にはならなかったようだ。 トホホ。

 ところがある日、その女性喜ばしの「ささやきインストラクター」がいなくなり、別の男性インストラクターが引き継いでいた。彼は「ささやき」とは逆で「叱咤激励型インストラクター」。“Vamos、vamos.Gorda,gorda(ほら、ほら、太っちょさ ん、太っちょさん)”彼のクラスは参加者が激減したのは言うまでもない。

余談:マシーンと奮闘している私と目が合った「叱咤激励型インストラクター」が、私にウィンクしてきた。「セニョーラ、一人でマシーンなんかに向かわず、私のクラスを受ければ。」とでも言っているよう。目が合った瞬間にウィンクできるなんて、さすがラティーノ。その逆で目を逸らしてしまった私。「あら、ありがとう」と、さり気なく「ウィンク返し」ができればかっこいいなーと、自分の年齢を忘れ、家で鏡に向かってウィンクしてみた。「セニョーラ、顔面神経痛大丈夫か?」とでも言われそうな、痙攣した顔しかできなかったので、「ウィンク返し」はあきらめた。

ラティーノは口だけでなく、顔全体の筋肉が日本人より柔軟性があるようだ。

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