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第29話 お気楽歯医者さん その1
 健康には恵まれている私達だが、歯に関しては、日本にいた頃から、歯の健康診断と称して半年に一回歯医者に通っていたので、コスタリカに来てもそれだけは欠かしたくなかった。7年前、コスタリカで日本人がよく通っていた歯医者は我が家から遠く、車のない私達には、気を付けていても急に歯痛に悩まされる場合や、また、通い続けることを考えたら家の近くがいいと思い、自分で歯医者探しをすることとなった。

 幸い、3ブロックほど離れた所に「クリニカ・デンタル(歯医者)」の看板を見つけた。その医者がいいかどうかわからないが、取り敢えずドアをノックしてみた。出てきたのは女医さんで、名前はアリシラ。大きな目がパンダのように垂れていて、チャーミングな印象を受けた。スペイン語で歯のことを話せないので、「英語わかりますか?」の私の問いに、「イエース」と彼女。それからスペイン語がわかるようになるまで、彼女と私の片言英語会話となるのだが、救いは医者独特のツンとしたところがなく、外人である私や子供達にとってもやさしく対応してくれた。

 私と年齢が2歳しか違わないので、その女医さんは私にとって数少ないコスタリカ人の知人の一人だ。彼女の診療所は、アシスタントが一人、患者用の椅子が一つ。日本の歯科業界では、ワンチェア(診療)と言うのだそうだ。
アリシラの特徴の一つは、おっちょこちょい。いつも何かを探している。「領収書はどこ?」毎回使うものを、どうして探すのか? ♪探しものは何ですか〜♪
「マスク(水が顔に掛かるのを防止するもの)はどこにやった?」棚の上に置いていた。
「xxx(何か治療に使うものか、専門用語でわからない)は、どこにやったっけ?」と言いながら、ゴミ箱を覗く。(おいおい、大事なものをゴミ箱にうっかりでも入れるの?)

 彼女は器用でもある。電話をしながら治療をする。一人でやっているので、治療中に電話が掛かってくると、アシスタントがアリシラの耳に受話器を当てる。喋りながら私の口の中をいじくるのだが、その内、話が盛り上がってくると、手を休めて電話に集中する。口をあけている私はたまったものじゃない。電話が終わると、「ねー、こんなこと言っているのよ・・・」と私に今の会話の内容を話し出す。「本当、困るのよね。」と彼女。(そんなこと言われても、困るのは口をあけっ放しの私です)

つづく

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